ビザンツ皇妃列伝―憧れの都に咲いた花 (詳細)
井上 浩一(著)
「ビザンツ帝国の歴史の面白さを満喫させてくれる」「政治だけでないビザンツ」「再刊が望まれる書」
生き残った帝国ビザンティン (講談社現代新書) (詳細)
井上 浩一(著)
「「ローマ人の物語」シリーズがそろそろ終わることをご心配の方へ。」「古代帝国の中世的再生を活き活きと解説」「読みやすいビザンティン帝国史」「ビザンツ史入門書」「very interesting book」
ビザンツ帝国史 (文庫クセジュ) (詳細)
ポール ルメルル(著), Paul Lemerle(原著), 西村 六郎(翻訳)
「現代ヨーロッパ理解に」「図書館」「ごく一般的な「東ローマ帝国史入門」」「現時点で入手が容易で、コンパクトなビザンツ帝国通史」「ビザンツ帝国ってすごかったのね」
東ゴート興亡史―東西ローマのはざまにて(中公文庫BIBLIO) (詳細)
松谷 健二(著)
「あるゲルマン民族の物語」「ここのレビューを見て買いました」「英雄をかく語りき」「面白いですよ!」「レビュアーの方々に感謝です」
黄金のビザンティン帝国―文明の十字路の1100年 (「知の再発見」双書) (詳細)
ミシェル カプラン(著), Michel Kaplan(原著), 田辺 希久子(翻訳), 松田 廸子(翻訳)
「キリスト教世界の帝国」「眺めて楽しいビザンティン帝国の本」「ビザンティンへのビジュアル的案内」
コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫) (詳細)
塩野 七生(著)
「ランシマンより断然お勧め」「「東ローマ帝国」「オスマントルコ」を立体的に捉えることができるになる」「甘美でスリリング、それでいて歴史の醍醐味が溢れ出る」「人類の星の時間」「甘美な映画のような戦争絵巻」
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集) (詳細)
塩野 七生(著)
「地中海で隆盛を誇った貿易国家を描いた、警句と示唆に富んだ作品」「ローマ人の物語シリーズが終わることを心配な方へ・その3」「美術館のような都市を残した経済大国」「大国中国と対峙する日本の生き方に多大のヒントが!」「「歴史評論」としては抜群の面白さ。」
わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集) (詳細)
塩野 七生(著)
「マキアヴェッリに対する暖かい視点」「愛をこめて」「この1冊でコシモ・メディチ以降のフィレンツェ共和国の歴史がわかります。」「フィレンツェ共和国を守ろうとした男」「悪魔の書ではありません!」
神聖ローマ帝国 (講談社現代新書) (詳細)
菊池 良生(著)
「最初の一歩はこの本から」「中世ヨーロッパ史の格好の入門書(しかも読みやすい!)」「中世ドイツ理解のための優れた入門書」「すべてにおいてバランスのとれた稀有の書」「手軽でわかりやすい中世ヨーロッパ史としても最適」
オスマン帝国―イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書) (詳細)
鈴木 董(著)
「今日の様々な問題を考えるヒントを与えてくれる良書」「オスマン帝国を知る」「寛容と多様性の帝国」「オスマン帝国の簡便な通史」「very useful book」
ローマ教皇歴代誌 (詳細)
P.G. マックスウェル‐スチュアート(著), P.G. Maxwell‐Stuart(原著), 月森 左知(翻訳), 菅沼 裕乃(翻訳)
「教皇が変わると政治も変わる」
ヴァンダル興亡史―地中海制覇の夢 (中公文庫BIBLIO) (詳細)
松谷 健二(著)
「あるゲルマン民族の物語・その2」「アフリカに渡ったゲルマン部族」「歴史の中に消えていった民族の興亡史」「北アフリカ=サハラ砂漠=不毛の地??」
生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866) (詳細)
井上 浩一(著)
「名著の復刊を歓迎する。」「なつかしいなぁ〜」「「生き残った帝国」の輝かしい歴史を、あなたに。」「おもしろい!読み易い!」「ビザンツ帝国の研究に最も有益」
ルネサンスとは何であったのか (新潮文庫) (詳細)
塩野 七生(著)
「決して入門書ではない」「ルネサンスへの誘いとしてこれ以上は望めない素晴らしい文庫本」「それは「見たい、知りたい、分かりたいという欲望の爆発」」「ルネサンスという、時代の流れが」「塩野ファンにも初心者にも」
ローマ亡き後の地中海世界(上) (詳細)
塩野七生(著)
「西地中海の海賊の横行を視座に据えた新鮮な中世史」「塩野七生の光と影」「『ローマ人の物語』と『海の都の物語』の空白期間を埋める作品」「パクス・ロマーナ終焉のちの地中海世界」「教科書に無い世界」
ローマ亡き後の地中海世界 下 (詳細)
塩野 七生(著)
「平和がどれほど貴重な事か」「ベネチア史」「中世の地中海世界は、何故一千年も海賊対策に明け暮れたか」「樹より森をしっかり見た、西欧・トルコ・海賊の約2世紀の歴史」「どうやって、読者をはまらせるか?」
オスマンvs.ヨーロッパ―〈トルコの脅威〉とは何だったのか (講談社選書メチエ (237)) (詳細)
新井 政美(著)
「目からうろこが何度も落ちる本」「オスマン帝国の西洋史への影響がおもしろい」「案外知らない世界史の常識」「オスマン朝による平和」「オスマントルコという国家の特質をうまくまとめている」
海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫) (詳細)
塩野 七生(著)
「地中海世界の1000年をたどる」「優れた歴史書」「こういう仕事をする日本の作家さんって・・・。」「ヴェネツィアの生い立ちと成長」「ヴェネツィアのイメージが変わりました」
カペー朝―フランス王朝史1 (講談社現代新書) (詳細)
佐藤賢一(著)
「物語性豊かな歴史書」「待望のフランス王朝通史シリーズの始まり」「読みやすいフランスの通史」「フランスの黎明期を担った王たちを活写する好著」「フランス王国の基礎」
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・「ビザンツ帝国の歴史の面白さを満喫させてくれる」
ビザンツ帝国の歴史については、同じ作者による「生き残った帝国ビザンティン」とこの本がお薦めです。前者が総論だとしたら、こちらは各論とも言えますが、帝国の歴史の節目節目・転換点(例えば、アテナイス・エウドキアの場合はエフェソス公会議を中心とする初期キリスト教の宗派争い、アニェス・アンナの場合は第4回十字軍とコンスタンティノープル陥落)を、数奇な運命をたどった8人の皇妃の生涯とともに鮮やかに描き出してくれます。8人の中では、優れた歴史家の娘アンナを育てて敬虔なキリスト教徒として修道院で晩年を過ごすことができたエイレーネー・ドゥーカイナーの生涯が、読者の気分も幸福なものにしてくれるでしょう。
列伝という形でこのように歴史のポイントをおさえていく作者の力量はなかなかなもので、何よりも作者のビザンツ帝国の歴史への愛情を感じることができます。一般に中世史は敬遠されがちかもしれませんが、作者の的確な案内で、中世史を飾った8人の女性たちの生涯の物語に引き込まれ、私は目から鱗の至福の時間を過ごすことができました。
・「政治だけでないビザンツ」
ビザンティン帝国、または東ローマ帝国の本を探せば、政治、神学中心の品揃えで、正直言って、反吐が出ておりました。私は研究者でない。千年続いた帝国を治めた皇族が、どんな人たちだったのか、それが知りたかった。
本書を読むと、皇族、特に女性の記述が少ないのは、政治に関わることが少なかったからであるという。
確かに、高校歴史教科書でも、おなじみは皇后テオドラ。良くて女帝エイレーネー。たまに、用語集で皇女アンナ・コムネナがある程度か?神様・皇帝至上主義で、その他はどうでも良かったのか。
ローマ教皇庁と袂を分かってからの帝国は、唯一の元祖ローマ帝国として、慇懃神聖謹厳でとりつくしまのないような、がっちがちのギリシア正教の国だったのだと、勝手にイメージしていた。(本当に勝手である。)
筆者の想像力に頼らねばならないほど、帝国の歴史書は間違い当たり前、一方の主張に忠実、女性無視状態。
こりゃ、整理して一人の皇妃の話を完成させるのに、相当苦労なさったんでしょうな。おかげで、とても興味深く読めました。ビザンツ史がとっつき悪いと感じたら、この本で仕切り直しを勧めます。おもしろいですから。
・「再刊が望まれる書」
今日ほどビザンツ帝国史が一般的に知れわたっていなかったので、たいへん興味深く読めたという想い出のある本です。
世間一般ではビザンツ帝国の皇妃と云えば、せいぜいユースティーニアーヌス1世の妻のテオドーラーか、ローマ帝国最初の女帝エイレーネー、父帝アレクシオス1世の伝記文学を著したアンナ・コムネーネー、それにマケドニア朝の女帝ゾーエーといったところが関の山だったと言ってよい時節であったかと記憶して居ります。以降ほんの十年足らずの間にビザンツ帝国史に関する書物がいくつも出版・邦訳されるようになり、現今では本書に記されている女性たちは世界史愛好家のあいだではお馴染みの存在となって居ります。
・「「ローマ人の物語」シリーズがそろそろ終わることをご心配の方へ。」
心配の必要はありません。東ローマ帝国の1000年の歴史もなかなか捨てたものではありません。キリスト教化されたとはいえ、そして実質的にギリシャ人の帝国であったとはいえ、1000年の間にそれなりに自己改革を行いながら、東西の文明の衝突する地域を1000年も生き残ることのできたこの国の興亡史が面白くないはずはありません。そして、この本は、その面白さをわかってもらおうと、色々なエピソードを交えてこの国の歴史への愛を語る作者の思いが伝わってくる力作だと私は思います。
作者はローマ帝国末期のコンスタンティン大帝の時代から筆を起こしますが、コンスタンティノープル建設にまつわるエピソードなどは、このあたりの記載があまりにもあっさりしすぎていた「ローマ人の物語 XIII 最後の努力」に不満を持った人にも満足のいく興味深い話を補ってくれます。何よりも作者のこの都に対する愛情が感じられます。
追記2008年3月21日:朗報です。本書は本年3月、文庫版として復刊しました。
・「古代帝国の中世的再生を活き活きと解説」
テオドシウス1世の死により東西に分裂したローマ帝国。西ローマは民族移動の大波に呑まれるかの如く5世紀後半に滅亡の日を迎えますが、東のカウンターパートは、ビザンティン帝国として猶一千年もの歴史を刻むこととなります。古今東西、人類の歩みの中では様々な国家や政治権力が成立しましたが、これほどまでに長い命脈を保ったものは極めて希です。それを可能としたカギは何処に求めるべきでしょうか。 本書は、そうした問題意識を下敷としつつ、コンスタンティヌス大帝の改宗と遷都から筆を起し、この帝国の長いながい歴史をコンパクトに、そして平易な語り口で概説するものです。ユスティニアヌス1世、バシレイオス2世、アレクシオス1世、そしてマヌエル2世など、帝国治乱興亡の立役者となった幾人かの皇帝の治績を中心に筆を進めていますが、中央政権と貴族層との関係の推移、農村共同体の変容とそれに伴う軍隊の質的な変化などにも適宜触れることにより、社会・経済的な面にも然るべく光を当てています。全体として、古代以来の老帝国が時代の推移に応じて中世的な政治権力に変貌しながら発展を遂げ、やがてまた、社会的条件の変質と安全保障環境の変化の中、衰亡に向かわざるを得なかった様が活き活きと描き出されています。 本書により、ビザンツ一千年の寿命の秘密が明らかになったか否かは、読者がそれぞれに判断すべきことと思いますが、小生としては、本書の内容は問題意識をしっかり反映しているように思います。 既に絶版になった模様で、入手しにくいこととは思いますが、ビザンツ史の入門書として、手頃で実に優れた一冊だと思います。
・「読みやすいビザンティン帝国史」
ローマ皇帝コンスタンティヌス一世がキリスト教に改宗し、首都をローマから黒海と地中海を結ぶギリシャ植民都市ビザンティオンをコンスタンティノープルと名を変えて移したことから、この大帝国は新たな局面を迎えた。やがてローマ帝国は東西に分断し、西ローマ帝国は崩壊し、やがてラテン語・カトリック世界となる。東ローマ帝国はビザンティン帝国に変貌し、ギリシャ語・正教世界として独自のキリスト教世界として発展していく。専制国家ビザンティンは、東からの新しく勃興したイスラーム勢力、そして西から来寇した狂信的な十字軍と死闘を繰り広げながら、1453年に滅亡するまで長い間、独自の文明・文化を発展させて来た。実際ビザンティン帝国は実質的に「ギリシャ帝国」である。本書は日頃、西欧に目を向けがちな日本人に分かりやすいように、後に東欧、ロシア、トルコ、アラブなどに影響を残したビザンティン帝国の通史として手頃なものである。
・「ビザンツ史入門書」
ビザンツ帝国というと研究の立ち遅れから日本ではマイナーな感じもあるが、本書でも再三述べられているとおり、当時はかなりの先進地域であった。それは西欧においてカール大帝やオットー大帝ですら、ビザンツ帝国の顔色を伺いながら自らの地位を築いていったことからも伺える。本書は、そんなビザンツの盛衰を、帝政ローマ期のコンスタンティヌス大帝の改宗・建都から1453年の帝国滅亡まで網羅した秀作といえよう。ビザンツ史を学ぶものにとってはもちろん、広く中世の歴史に興味を持つ人には必読の書である。ただ一点、帝国の範囲が流動的であるがゆえに、私のような地理感覚の疎い読者には想像し難いところもある。もう少し地図を増やして欲しかった。
・「very interesting book」
新書版のビザンティン史が幾つか出ていますが、そのなかでは本書が最も手際よくまとめられていて、面白く読むことが出来ました。ただ前半部に紙数を割きすぎたせいか、プセロスの史書に登場する興味深い人物、就中ミカエル3世と彼のあとを継いだバシレイオス1世との男色的関係などに触れられていなかった点が残念です。またビザンティン帝国で活躍した「宦官たち」に関する言及が乏しいことも、やや心残りの感を否めません。 とはいえ、忙しくて時間のあまり無い人や手短にビザンティン史の概略を知りたい人にとって本書はうってつけの作品と申せましょう。
・「現代ヨーロッパ理解に」
帯にある「文明の衝突」は果たして相応しいかどうか疑問ですが、現在のトルコと東欧圏の歴史、カトリックと正教の分離などを知る上で非常にわかりやすい本です。皇帝、教皇、都市の名前が続出しますが、混乱することもなく読めました。異民族集団、イスラム勢力、十字軍など押し寄せてくるトラブルに戦い抜いて15世紀まで持ちこたえたビザンツ帝国。はかなく滅び現在の西ヨーロッパの母体となった西ローマ帝国の方に目がいきやすいようですが、東ローマ(ビザンツ帝国)の歴史も現在のヨーロッパを理解する上では欠かせないと思いました。
・「図書館」
西ローマが戦争をしていたとき東ローマは文明を守っていたのでは。かなり長期の国家だったような・・・。内容は普通の教科書です。でもローマの遺跡ってローマ時代のごみが残ったものなんですね。やはりごみの問題はいつになっても大切なんですね。
・「ごく一般的な「東ローマ帝国史入門」」
西方のローマ帝国が滅びる前から帝都コーンスタンティーノポリスを首都として事実上の「真のローマ帝国」であった通称・東ローマ帝国の概史です。読みやすい日本語に翻訳されていますが、固有名詞の表記に些か杜撰な傾向が認められます。
日本人研究者の手になる優れた入門書も幾冊か出版されているので、本書を敢えて新たに書架に加えなければならぬか否かは、読者各自の判断にお任せしますが、ごく手軽に読める簡便さから云って、これから「ビザンツ帝国史 」に関して何か1冊を、と捜していらっしゃる向きにはオススメ出来ます。
・「現時点で入手が容易で、コンパクトなビザンツ帝国通史」
私は、ビザンツ帝国の歴史の本としては、井上浩一教授の著作が優れており、いわば総論として「生き残った帝国ビザンティン」、各論として「ビゼンツ皇妃列伝」の2冊を高く評価しているのですが、どちらも現時点では入手が容易ではありません。そのため、次善の策として、ビザンツ帝国の通史を手っ取り早く理解したい方には入手が容易な本書を薦めます。本書はビザンツ帝国の歴史の要点を漏れなく、かつ簡潔に記載しており、また井上教授の上記著作から漏れている点もカバーしてくれるので、それなりに重宝です(特に巻末の歴代皇帝一覧表)。ただ、歴史に触れる醍醐味、つまり書物としての躍動感、そして歴史から何を学ぶかという視点については、上記の井上教授のものには及ばないと私は思います。なお、ビザンツ帝国の文化・生活面については「黄金のビザンティン帝国」が図版を多く掲載しており、大変参考になります。
追記2008年3月20日:上記「生き残った帝国ビザンティン」は文庫本として本年3月に復刊しました。
・「ビザンツ帝国ってすごかったのね」
ビザンツ帝国て何となくローマ帝国がどんどん衰退していったおまけみたいな気分だったが、1100年も続いて、ルネサンスに貢献しているのだ。1100年間もただただなんとなく存続していたわけはないのであって、しっかりした国家だったはずだ。その1100年の歴史を文庫クセジュ一冊でカバーしているのだから、駆け足と言うより全力疾走。しかも、政治史だけをなぞっただけ。
それでも、ビザンツ帝国史が重要で、われわれが見ているヨーロッパ史というのがフランス史に偏っているのもよく分かる。これから、東欧の重要性が増してくるし、トルコの EU 加盟も実現しそうな勢いである。この地域を理解する上でビザンツ帝国史の重要性は増してくるだろう。読んでいてかなり退屈だったが、この認識が持てたのは良かった。
●東ゴート興亡史―東西ローマのはざまにて(中公文庫BIBLIO)
・「あるゲルマン民族の物語」
塩野七生氏の「ローマ人の物語」シリーズがいよいよ今年末にフィナーレを迎え、476年の西ローマ帝国滅亡で幕を閉じるのではないかと私は考えていますが(もちろん私の予測を裏切る嬉しいサプライズは歓迎です)、そうするとイタリア史ファンとしては、同氏の「海の都の物語」がフランク族を撃退してヴェネツィア建国から始まるまでの間、空白の期間が生まれることにもどかしい思いをすることになります。その空白の期間の一部を埋めてくれる嬉しい歴史書が本書です。ハイライトはオドアケルを倒し、イタリアを支配するに至ったテオドリック大王の活躍(5〜600万人のイタリア人、つまり西ローマ人を10万人ほどで支配し、しかも善政を実現したのですから、たいしたものです)でしょう。そもそもゲルマン民族の大移動の時代を取り上げた(日本語による歴史ファン向けの)本が少なく、ましてやある一民族の、その原住地から移動を開始して滅亡を迎えるまでをわかりやすく概観する本は、私が知る限り、これまでなく、そういった意味からも貴重な本であり、「ローマ人の物語」シリーズの続編としてゲルマン人の物語を書くとすれば、その第1巻に位置づけてもよい本書は、ヨーロッパ史ファンの方には是非一読してほしいと思います。
・「ここのレビューを見て買いました」
この本は読みやすく面白い本です。一気に読みきってしまえるほどです。こういうテーマの本は,かなり専門的な論議に向かってしまうことが多いのですが,筆者の松谷健二さんは,ヨーロッパ古代史に詳しくない人にもわかりやすく,興味を持って読んでいけるように配慮されているようです。
それから,一般に知られている伝承に対して,疑問点を投げかけられているところも,この本を読んで印象に残ったところです。例えば,獰猛な性格で悪魔的な人物として描かれることが多いフン族の王アッティラが,史料・史実から判断すると,情勢を冷静に判断し,外交にも長けた人物らしいことが指摘されている点ですね。
・「英雄をかく語りき」
いわゆるゲルマン人の大移動・西ローマ帝国の滅亡を簡潔かつ鮮やかに軽妙な語り口で読ませる歴史ノンフィクションです。
さて、東ゴートのテオデリックやトティラといった王達は、強く、賢く、ルックスも良い、という3拍子そろった人物で、ゲルマン人の英雄とはこういう人たちであったのか、と考えさせられます。日本人の英雄像とはやはりちょっと違って、頼朝と義経のいいとこどりしたような人物になるのでしょうか。
ともあれ、この作品はテーマからいっても裏「ローマ人の物語」というとわかりやすいかも。ただし、その妙なる語り口は塩野七生のそれより数段こなれています。歴史好き・読書好きの方には、同作者の「カルタゴ興亡史」と併せて是非一読をお勧めします
・「面白いですよ!」
ゲルマン民族の中でも最も有名な部族の1つ、東ゴート族の始原から滅亡までをたどる本。ゲルマン民族大移動の時代、東ゴート族はどのようにしてイタリアに建国し、滅んでいったのか。またニーベルンゲン伝説に登場するゴート王ディートリッヒの実像にも迫る。面白かったのはローマ側に同じ東ゴート族や他のゲルマン民族の傭兵や高級軍人がいて、同じ民族同志で戦うことが頻繁にあったこと。こうした細かい事情や政治の駆け引きは、大移動を概観する本よりずっと詳しい。一方で、東ゴート転落の原因を作った東ローマの皇帝、ユスティニアヌス1世と皇后テオドラについても1章を設けている。ところがこの2人、実に面白い夫婦なのだ。テオドラは、もともと身分の最下層に位置する女優(+娼婦)の出身だが、執政官まで出世していたユスティニアヌスに見初められる。しかし当時、元老院議員以上の身分の男性は女優と結婚できないという法律があったため、ユスティニアヌスは彼女と結婚するために法律を変えてしまうのだ(すげー!)。この辺り、ゲルマン民族の大移動で面白いのは、各部族の動向だけじゃないんだなぁ、と思ってしまう。物語を話すような語り口なので読みやすく、かつ面白い。歴史が好きな人にも、そうでない人にもオススメです。
・「レビュアーの方々に感謝です」
内容については他のレビュアーの方々が書いて下さっていますね。皆さんのレビューを拝見して注文してみました。本当に面白い!あっという間に読了しました!馴染みの薄い時代の馴染みの薄い部族の物語でありながら、不思議と東ゴート族の運命に強く感情移入してしまいます。迫り来る運命を目前にしたトティラ王の奮戦など強烈に胸が締めつけられました。短い一冊ですが、大変に濃い内容です。語りの上手さ同様、少年時代からの興味と情熱を同書に結晶化させた作者の姿が印象的。小谷野氏同様(ご著書拝読しております)、本書によってフェリックス・ダーンに興味を持ち、早速英語版『A Struggle for Rome』を注文してみました。原書はドイツ語だそうで、アマゾン・ドイツを覗いたところ、フェリックス・ダーンをナチスのプロパガンダ絡みで非難するレビューがチラホラ見受けられ…ドイツも苦労の多い国だな、と思わず暗い気分になってしまったり。読んでいて脳裏をチラチラしたのは『ロード・オブ・ザ・リングス』のイメージでした。トールキンはフェリックス・ダーンの『A Struggle for Rome』(原書タイトルは『Ein Kampf um Rom』)に影響を受けたと、との見方もあるようですよ。
●黄金のビザンティン帝国―文明の十字路の1100年 (「知の再発見」双書)
・「キリスト教世界の帝国」
ビザンティン帝国、いわゆる東ローマ帝国に関する概説書。ローマ帝国の継承者であり、また西欧とイスラム世界の狭間という絶妙な地理的位置が生み出した独特の文化、社会を論ずる。知の再発見双書シリーズの常として、カラー図版が非常に多く、楽しく読むことが出来る。ビザンティンの特徴でもある美しい工芸品や、モザイク、写本の絵などをみることができる。本書は、ビザンティン帝国の略史を概観するとともに、皇帝の権力、貴族社会について、またコンスタンティノープルの町の生活の様子&郊外の農村の様子を紹介してゆく。また、ギリシアの古典を継承した学問・文学・文化、そして帝国の核をなすキリスト教、聖人信仰、イコン崇拝などについてもしっかり解説していく。著者がビザンティン帝国に滞在していたんじゃないかと思うほど生き生きした描写で、帝国の様子、社会構造、西欧やイスラム世界とのかかわりが描かれており、興味深い。ことに、非常に強い皇帝の権力、ローマ帝国を継承するすさまじいまでの誇りが印象に残った。また、コンスタンティノープルはキリスト教を初めて公認したローマ皇帝、コンスタンティヌスが遷都した都である。ゆえにこの帝国は、キリスト教世界を代表するという自負をもち、同時に、異教世界である古典を継承するがゆえの神学上の論争も絶えず、キリスト教と西欧以上に深い関係をもっている。本書全体を通して、皇帝は神の代理人であり帝国は天の王国の地上版であるという思想が貫かれているのが印象的だった。
・「眺めて楽しいビザンティン帝国の本」
本書は、カラーの図版が満載されており、眺めているだけでも大変楽しい。「光の都コンスタンティノープル」と称えられたほどに栄えた帝国であるから、そこで作られた当時の絵画・装飾品は見事な色使いで、それが今日までよい状態で保存され、このコンパクトな本によって楽しむことができるのであるから、真に嬉しい限りである。ビザンティン帝国1000年の歴史自体の記載は少ないが(物足りない人は本書の監修者・井上浩一教授著作の「生き残った帝国ビザンティン」「ビザンツ皇妃列伝」等で補うことをお薦めします)、この本はむしろ皇帝の日々の公務や、官僚・都市生活者・農民・聖職者の日常の生活を豊富な図版とともに詳細に記述しており、本書に代わるような書物を私は寡聞にして他には知らないので、非常にいい勉強になりお得な本だと私は断言します。当時の人々の生活(戦争も含みます)をこれほど鮮やかに活写した美術品が多く残っていることがそもそも驚きです。中世美術は決して退屈なものではないことを実感できるでしょうから、本書はお薦めです。なお、他に素晴しい絵があるのですから、裏カバーに(いくらビザンティン帝国と浅からぬ縁があったとはいえ)ヴェネツィアの聖マルコ教会及びその前の広場を描いた絵を用いる必要はあったのでしょうか、疑問です。
・「ビザンティンへのビジュアル的案内」
日本人にはあまりなじみがないが、ビザンティン帝国の歴史上の意義や、その文化の絢爛さは特質に値するもので、目眩まんばかりである。 本書はそのビジュアル的にすぐれた概説、案内書である。ギリシア、ローマ、イスラームなど様々な文化を継承し、また独自の次元に昇華した文明はエキゾチックでわれわれを魅了してやまない。 その写真や図版は眺めているだけで楽しい。
・「ランシマンより断然お勧め」
1453年にオスマントルコがビザンチン帝国の最後の息の根を止めた歴史上の大事件に焦点を絞った歴史小説です。
みすず書房からランシマンが著した「コンスタンティノープル陥落す」という本がでており、こちらのほうが時間的にも長期間、空間的にも広域にこの事件を扱ってはいます。が、素人の最初の一冊としては断然塩野さんのほうが面白い。(ランシマン本は、護雅夫の訳に問題があると思いました。日本語としてのリズムが悪いので原作の魅力を削いでいるように感じます。なおランシマンは英国の歴史家。塩野さんの他の著作に名前がでてきますが、十字軍史の権威とのこと。) 塩野本に魅せられて、この都市の陥落について何冊か読みましたが、これが一番読ませる本でした。
ただ、主要登場人物のうち宰相ノタラスへの評価、というか観点についてはかなり素っ気無いので、他の著作でのノタラス評価も知った上で、この小説を読むとさらに味わいを深いものにできると思います。
・「「東ローマ帝国」「オスマントルコ」を立体的に捉えることができるになる」
塩野七生さんの作品は初めてでしたが、読みやすく、興味を煽る文体でした。3日ほどで読破してしまいました。「東ローマ帝国」「オスマントルコ」に関する小説を読んだことがなかったため、このあたりの世界史を感情移入することができなかったためなかなか頭に入ってきませんでした。日本史や中国は、関連する小説や「三国志」などを読んでいるので、すーっと頭に入ってきて、観光でその土地を訪れたときの感慨がひとしおです。この作品を読んだことで、ヨーロッパを訪れたときにも同じような感慨に浸ることができるようになったと感じています。「東ローマ帝国」「オスマントルコ」を立体的に捉えることができるようになりました。また、欧州の人たちの心象風景にあるキリスト教的な世界観を垣間見るのにも役立っていくのではないかと考えています。他の、塩野作品を読んでいきたくなりました。
・「甘美でスリリング、それでいて歴史の醍醐味が溢れ出る」
塩野作品の中でも「初期作」というべき物語。私が高校生のとき“塩野七生”という素晴らしい書き手に出会い、大学期に「西洋史を専攻しよう」と決意させてくれた、感動作。
よい点その1:「歴史は数々の人間たちの手によって作られていく」という視点。この作品も、ビザンツとオスマン=トルコ、それぞれの“立場”を生きる人間たち〜国王、一家臣、聖職者、商人など〜の複数視点から、コンスタンティノープルの陥落が詳細に見つめられています。 あるSF小説に「真実は複数あるんだろうな」という台詞がでてきますが、そのとおり“コンスタンティノープルの真実”はひとつではありません。戦争を引き起こす者の真実、それに加わった王や臣下、騎士・商人・庶民としての真実が克明に浮かび上がり、本質的な歴史のダイナミズムが伝わってきます。 その2:決して感情的にならず、つねに冷徹かつ、客観的な文体で描かれているところ。非常にシリアスで、べたな起承転結や情感を一切廃した著者の文体は、青年帝王マホメッド2世の姿をより残忍に・美しく際立たせ、必死の抵抗を試みながらも費えてしまうビザンティン帝国の悲劇をリアルに映し出しています。
「甘美でスリリングな歴史絵巻」と裏表紙の解説文が的を得ているとおり、オトナで知的な雰囲気が存分に溢れたスペクタクル歴史巨編です!
・「人類の星の時間」
若いころ読んだステファン・ツヴァイクの『人類の星の時間』という書がある。ツヴァイクはその序で「世界史の中で一つの天才の意思が白熱化して決定的になるとき、それはしばしば一分間に圧縮されるような劇的な緊密な時間が、数十年数百年のための決定をする、あるいは全人類の運命の径路を決めさえもする」とし、この時を『星の時間』と呼んでいる。この『時間』の中に『ビサンチンの都を奪い取る-1453年9月29日』としてコンスタンチノープルの陥落が取り上げられている。また、豊田譲の『艦隊山越え』も同じテーマを扱っている。迂闊にもこの二冊を読んでいたせいか(塩野七生の)本書を読んだものと錯覚していた。このほど誤りに気がついて遅ればせながら読んだ。
・「甘美な映画のような戦争絵巻」
東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルがオスマントルコの若き皇帝マホメッドに陥落する戦争を克明に描いた甘美な歴史絵巻。500年前の登場人物それぞれが塩野さんの緻密な資料調査で、あたかも目の前の生身の人間のように描かれ、映画のような巧な構成で、登場して敵・味方・中立の証言者としてクライマックスへと突入していく。太平洋戦争記のような苦渋に満ちた壮絶さはないが、それは時間がそうさせるのか、読者にとって救いなのか。半世記では答えはでないが500年たって答えがでるものもある。
●海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
・「地中海で隆盛を誇った貿易国家を描いた、警句と示唆に富んだ作品」
いまではゴンドラと運河、という観光都市の印象が強いヴェネチアの都市国家としての千有余年に渡る歴史を描いた。地中海で隆盛を誇った貿易国家の興亡の歴史を、「美術史以外、ヴェネチア史ついて書かれた書物が皆無」の日本に紹介した逸品。大部の作品だが、決して難解ではなく、著者独特の硬質の筆致に慣れると大変おもしろく読める。
後年の「ローマ人の物語」でも顕著だが、著者はこの国家の歴史を描くにあたって、単に歴史上の事象を追うのではなく、その背景となる文化、技術、考え方など周辺事象を含め、余さず描いていく。干潟の上につくられた都市の構造から説き起こし、船の構造や発展、銀行や為替といった商業制度とその発展、政治制度、服飾、女性史などなど。もちろん歴史としても、第四回十字軍、ラテン帝国、ジェノヴァとの制海権争い、オスマントルコ・・・と内容には事欠かない。ヴェネチアが、キリスト教文化圏にあって、十字軍の狂信からも、宗教改革とその反動の独断からも、魔女狩り、異端裁判といった気狂い沙汰からも自由でいられたのはなぜか?
君主制を選ばず、かといって宗教国家でもなく、それでいて強力で統治能力に優れた政体を維持できたのはなぜか?「すべての国家は、必ず一度は全盛期を迎える。しかし全盛期を何度も持つ国家は珍しい。・・・それを何度も繰り返すのは、意識的な努力の結果だからである。」などなど、全巻にわたって示唆に富む。
・「ローマ人の物語シリーズが終わることを心配な方へ・その3」
これまでこのレビュー・タイトルで、「神聖ローマ帝国」と「ビザンツ帝国」の本について書きましたが、ローマ人の物語シリーズが大団円を迎えた後、お薦めする作品の大本命は同じ作者による本作ということになるでしょう。残念ながら文庫本は品切れのようですが、私が持っている文庫本版で上下巻併せて千頁を超す大作。ゲルマン民族に追われ、撃退して独立を保ってから、ナポレオンに滅ぼされるまでの、ヴェネツィア共和国(いかに徹底して君主制を排除したかも丁寧に書かれています。)の悠久の千年の歴史は、必ずや読者を惹きつけてやまないでしょう。ヴェネツィアを中心に、ライヴァル国(例えば同じイタリアならジェノヴァ等の他の海洋国家、イタリア外ではビザンツ帝国やオスマン・トルコ)との抗争、他のイタリア都市国家や法王との集合離散など、イタリア千年の歴史を俯瞰するのに格好の本です。作者には「レパントの海戦」等、本書に取り上げられた1エピソードに焦点を合わせた一連の好著がありますが、まずは本書でマクロ的にヴェネツィアを中心とするイタリアの通史を抑えてから、個々のエピソードの本を読むとよいのではないでしょうか。聖地巡礼パック旅行やヴェネツィアの女たちといった章もあり、本書は当時の人々の生活に目を配ることも忘れていません。これだけ充実した内容でこの分量、一度読み始めるとまさに巻を置くこと能わず、読書の醍醐味を味わうことができるでしょう。
・「美術館のような都市を残した経済大国」
ローマ人の物語で知られる著者であるが、中世ヴェネチアに対する彼女の洞察も、なかなかにすばらしいものがあります。なかでもエルサレム巡礼を記した”パック旅行”など、商人であり経済大国であった彼らの行動を、実におもしろく伝えてくれます。交易に必要なためもあったのでしょうが、他宗教にも寛容な彼らの精神が、どうして現在の西欧諸国に残らなかったのでしょうか。塩野女史の見解を伺てみたいものです。
・「大国中国と対峙する日本の生き方に多大のヒントが!」
6月末大学のクラスメートでアドリア海・エーゲ海のクルーズに行くことになった。そのクルーズの出港・帰港地が共にベネチアであり、クルーズ終了後更に2日間ベネチア観光の日程をとっていることから、思い立って昔読んだ塩野七生女史の「海の都の物語―ヴェネチア共和国の一千年」を読み直そうと考えた。
十数年前に読んだ記憶があるが、細部は殆ど忘れていて、今回のクルーズの航路がヴェネチアが地中海の女王として、活躍した通商ルートと重なり合う為、興味は尽きなかった。是非ご一読をお勧める。 歴史としても面白いし、1000年に亘って繁栄を続けた統治機構を作り上げたプロセスなど、政治機構論的にもかつての政治学徒としても勉強になった。「ヴェネチア共和国は資源に恵まれなかった国である。資源に恵まれた陸地型の国家ならば、非効率の統治が続いても、それに耐えていかれる。古代ローマ帝国、ビザンチン帝国、トルコ帝国も、悪政が続いてもそれが帝国崩壊につながるには、長い長い歳月を要した。一方、資源に恵まれないヴェネチアのような国家には、失政は許されない。それはただちに、彼らの存亡につながってくるからである」との指摘は日本と中国との関係にもそのまま通用しそうな議論で、身に詰まされる思いを懐いた。
・「「歴史評論」としては抜群の面白さ。」
塩野七生はきわめてユニークな作家だと思います。そして、大変な論客でもあります。私が始めて塩野作品を読んだのは、この「海の都の物語ーベネチア共和国の一千年」です。もう15年以上前のことです。分厚い本で一瞬どうしようかと迷いましたが、読みはじめたら推理小説のように止まらなくなり、確か一週間くらいで読んだ記憶があります。それくらい面白い。なぜ面白いのか。これは歴史書ではなく、歴史小説でもない。あえていうなら歴史評論、司馬遼太郎の「街道を行く」のようなものです。文章が上手いのは当然のこととして、さまざまなことのディテールが極めて具体的に記述してある。なぜ、ベネチアという国ができたのか、都市国家の規模としてはさほど大きくはないのになぜかくも長きにわたり地中海で覇権を握れたのか、ひとつひとつわかりやすく書いてあります。「歴史小説で歴史を学んだような気になるな」と言う意見があります。その通りかもしれません。しかし、歴史家の書いたもので面白いものが少ないのも事実です。読みづらい。分かりにくい。面白みがない。だから、こうした歴史評論のようなものがあることは歴史物が好きな私などにはとても重宝です。この本を読んでからというもの、スッカリ塩野フアンになってしまいました。最近、とくに「ローマは一日にしてならず」の刊行がスタートしてからというもの、すべて「ローマ」をもとに論を張られているのはやや食傷気味になるときもありますが、それは他の人の書いたものも読むなどして比較してみればいいのではないか、と思っています。と同時に、歴史小説ではなく、これだけ面白く歴史を語ってくれる作家は非常に少ない、とも感じています。歴史というものはイマジネーションも加えてあれやこれや考えるのが面白いのではないでしょうか。塩野さんの本は知識だけでなく、つねに新しい視点を与えてくれ、もっとも好きな作家の1人です。
●わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)
・「マキアヴェッリに対する暖かい視点」
権謀術の代名詞で、どちらかというと暗いイメージがまとわりついているマキアヴェッリを従来とは全く別の視点で描いた本。ルネサンスの終焉、フィレンツェの崩壊を冷静に見つめた暖かい(血の通った?)人間像にフォーカスしています。歴史的背景などの説明も的確で分かりやすい。同じ著者による「マキアヴェッリ語録」と併せて読むのがおすすめ。
・「愛をこめて」
塩野七生という作家は 自分が女性であることを縦横無尽に使っている点では 特筆すべき作家である。好きな男に肩入れしている時の塩野は 「だって好きだからしょうがないじゃない」と言い切っている。これに反論することは難しい。塩野自身が それを分かっていて そう言っている。これを確信犯と言うのである。
そんな塩野の想い人の一人が マキアヴェッリである。彼は「君主論」で 日本でもよく知られている。マキアベリズムという言葉は 日本でも悪い響きを持って言われる。そんな彼の悪評に我慢がならないのが 深情けをしてしまっている塩野である。
本書で マキアヴェッリの生涯に親しく触れることが出来た。そこで描かれる彼は 幾分が滑稽味を帯びた 我々と等身大の男である。塩野は 彼を我々の目線に下げた上で その稀代の現実主義を説く。 実際 「君主論」を読んで見ると 彼は 科学者の視点で人間を語っているだけのように思えてしかたない。善悪を超えて 実態を冷静に叙述する彼は 正しく科学者である。 そんな彼を 愛をこめて塩野七生が描き出す。面白くないわけがない。
・「この1冊でコシモ・メディチ以降のフィレンツェ共和国の歴史がわかります。」
イタリアの都市国家、なかでもルネサンスの中心となった共和国として、フィレンツェとヴェネツィアの歴史はおさえておきたいところです。後者に関しては同じ作者に「海の都の物語」という大作・好著があり、それがカバーしてくれますが、前者、特にコシモ・メディチが実質的に支配するようになって以降の歴史は、501ページに及ぶ本作がカバーしてくれます。というのは、本書はマキアヴェッリがフィレンツェ共和国の官僚として、そして失脚して以降の本人の言動を中心にすえて彼が活躍した時代を生き生きと描くとともに、その前後の歴史、つまりマキアヴェッリが生まれる前、生まれてから官僚に登用されるまで、そして死後フィレンツェ共和国がトスカーナ大公国になってしまうまでの歴史も簡潔に記してくれているからです。この構成が素晴しい。
マキアヴェッリ本人は有能だが、決して権謀術策の人ではなく、まさに「わが友」と呼びかけたくなる人間味あふれる人物だったことが本書でよくわかります。特に失脚中に、夜書斎で読書、つまり古の人と対話をするときにわざわざ官服を身につけていたという冒頭のエピソードが感動的です。わが国の漢詩に「一穂の青燈万古の心」という読書の醍醐味を集約した名句がありますが、それに通じます。歴史ものの読書を愛する人にとって、このエピソード一つとっても「わが友」と呼びかけたくなる人物にマキアヴェッリが思えてきませんか。
・「フィレンツェ共和国を守ろうとした男」
16世紀のイタリアはフィレンツェ共和国に官僚として生き、運命の波に翻弄され、その著作により歴史に名を残すことになる、マキアヴェッリ。
フランス、スペイン、ヴェネツィア、ドイツ、法王といった軍事力のバランスの中でなんら主体性を持ちえなかったフィレンツェ共和国。
この両者を縦糸横糸としてフィレンツェ共和国に象徴されるルネッサンスの終焉が物語られていく。
読んでいて現在の日本の姿が重なって見えてきた。
・「悪魔の書ではありません!」
塩野七生を理解するにはこの人を外しては考えられません。彼女の著作すべてに脈々と内包されている透徹した目は、マキアベッリそのものではないですか。世の中そんなに甘くない、天国に行きたい人は、地獄への行き方を知っているほうがどんなに役に立つことか。表面的なあるいは情緒的な反感はこの際すっぱり捨てましょう。生きることは戦いである。進化論を待つまでもなく、自然淘汰は世の常ではないですか。そこにこそ人生を生き抜くアルテがあることを認識しましょう。マキアベッリを知らずして、世の栄達はないにちがいない。あとは、あなたにフォルトゥーナがありますように!ついでに、サマセットモームが書いた「Then and now」もいっしょにどうぞ。
・「最初の一歩はこの本から」
世界史の中で多くの資料が残っているにもかかわらず、最も捉えにくい国、それが『神聖ローマ帝国』である。「神聖でもなければ、ローマでもなく、ましてや帝国でもない」というヴォルテールの言葉は正に当を得ている。
われわれがこの捉えどころのない国について一般に知っているのは「ハプスブルク家が皇帝であった」ということぐらいで、ハプスブルク家について書かれた本は今まで結構多かった。しかし歴史を少しかじった人間ならばすぐわかることだが『ハプスブルク帝国=神聖ローマ帝国』ではない。では神聖ローマ帝国とは何なのだ、ということについてこの本は包括的な枠組みでしっかりと捉え、順序だてて説明している。そもそもこれがなければ、次の2歩目、3歩目がありえない。つまりハプスブルク家の台頭も、帝国議会の機能も、宗教改革の展開も、三十年戦争も全てはこの枠組みを認識して初めて理解しうるものだ。
まずはこの本から始めることをお勧めする。この内容でこの値段であれば大変にお得といえよう。
・「中世ヨーロッパ史の格好の入門書(しかも読みやすい!)」
中世ドイツを中心に中欧に広大な版図をもってはいたものの、世界史の教科書レベルの内容ではどこか掴みどころがなかった神聖ローマ帝国の成り立ちから消滅までをコンパクトにまとめた好著(実際は同帝国の名前の由来となる西ローマ帝国の滅亡時から記述されているのでもっと記述範囲は広い)。
ローマ法王を頂点とする教会勢力との絶え間ない確執・政争。一方で地域・都市を割拠する地方国家からなる連邦国家(もしくは分裂国家)としての成り立ち、配下の地方国家との複雑な力関係と権力委譲の経緯などなど、読みどころは満載。
新書ということで限られた文章に収めるため、権力闘争を中心とした記述になっており、軍事面や社会史・文化史的な観点での記述はおとされている。が、その分、内容が把握しやすい。文章もこの手の本にありがちな紋切り型の読みにくさはない。巻末やカバーには参考図書、関連図書の紹介もあり親切。
・「中世ドイツ理解のための優れた入門書」
「神聖ローマ帝国」と聞くと、どうしてもハプスブルグ家やドナウ帝国を連想してしまうのは小生だけではないと思います。しかしながら、帝国の歴史は遥か中世に遡り、ザクセン朝・ザリエリ朝・ホーヘンシュタウフェン朝など、幾多の王朝に亘る栄枯盛衰に彩られた中欧世界そのものの歩みでもあったのです。しかしながら、健全な中央権力の不在とそれに伴う政治的混乱は、帝国の実体を著しく捉えどころのないものとしており、その全体像や歴史的な意義を簡単に、かつ一般読書が興味を失わないよう面白く概説するのは、並大抵の仕業とは思えません。 しかしながら本書は、こうした途方も無い企てにマンマと成功しているように見受けます。著者がもともと文学畑出身ということもあってか、本書は「読まれる」ことを意識した記述振りに徹しているように見受けられ、たいへん好感の持てる出来栄えです。 内容的には、「カノッサの屈辱」「大空位時代」「金印勅書」「アウグスブルグの和議」といったメジャーな出来事を骨太に紹介しつつ、その背景や意義について、詳し過ぎず端折り過ぎず、程好い塩梅で解説していきます。また、個人の活躍に着目するのか時代の大きな流れに重点を置くのかといった点でも理想的なバランスになっていると思います。 ドイツ中世史はとかく取っ付き難いというイメージがありますが、本書はこの分野の入門に最適の優れものだと思います。
・「すべてにおいてバランスのとれた稀有の書」
時たま、このような本に出会う。内容、価格、文章、そのすべてがバランスがとれ、読み物として完成度の高い本に。もっと値段が高かったら、物足りないと思うかもしれない。もっと専門的だったら、初心者には敬遠されてしまうかもしれない。もっと内容が濃かったら比較的軽い読み物を期待する読者の多い新書の読み手が疲れてしまう。 反対に、もっと内容が薄かったら、この捉え方の難しいテーマをうまく読者に伝えられなかったかも知れない。本書は歴史書というより、作者が自ら明らかにしているように「個人的趣味」で貫かれた 神聖ローマ帝国を巡る読み物に近い。それは作者自身のこの帝国の謎への探求であり、語りの導入からその終幕まで、読み手はこの問いかけに引き込まれ、引っ張られるのである。なんと心地よい時間であることか。読者は十分に作者の語りに酔い、あまり日本人には身近でなかった神聖ローマ帝国の世界を浮遊するのである。 価格、章立て、内容、文体、そして帯に書かれた文言まですべてが絶妙なバランスをもった完成度の高い書物と言える。読者はしばし過大になりがちな帯の文言からイメージされる通りの内容を得ることができるだろう。曰く、
「この国にフランスは嫉妬し、イタリアは畏怖し、ローマ教皇は、愛し、かつ憎んだ」その理由を、十分に本書に期待してよい。
・「手軽でわかりやすい中世ヨーロッパ史としても最適」
とにかく日本人には、ローマ帝国が分裂してからルネッサンス・宗教改革がはじまる、いわゆる「中世」と言われる欧州の長大な期間の歴史がわかりにくいのではないだろうか。ロシア等の正教文化圏を除くとヨーロッパ中世史は宗教的権威である教皇と、各地方の様々な世俗権力の間の拮抗として描かれる。メロヴィング朝、カロリング朝、カール大帝、カノッサの屈辱、バルバロッサ、大空位時代、教皇のアヴィニョン捕囚、金印勅書、ハブスブルク家、三十年戦争、ウェストファリア条約等、中世史の必須知識と歴史の流れを鳥瞰できる。「神聖ローマ帝国」はナポレオンに解体されるまで、欧州を欧州足らしめてきた政治的枠組みともいうべき「理念」であったから、その歴史は単にドイツ史にとどまらず、むしろ欧州の全体史となるのである。複雑な中世史を新書一冊の分量で整理し、歯切れのよい文章でまとめた本書は、手軽な中世ヨーロッパ史としても最適だと評価できる。
●オスマン帝国―イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)
・「今日の様々な問題を考えるヒントを与えてくれる良書」
塩野七生氏の「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」等で、時には残酷であるけれども魅力的な(ある意味騎士道精神を感じさせる)敵役として描かれるオスマン帝国が当時なぜあれほど強かったのか、イェニチェリをはじめとする軍制の起源は、などの疑問に答えてくれる良書です。将来の争いの種を断つために君主の兄弟殺しをイスラム法学者が是としたり、シーア派の粛清を行ったり等の残酷な面もありますが、総じて多民族・多宗教の共存に成功し、社会階層間の流動性が高く、それでいて当時の西欧諸国にはない常備軍と中央集権体制を備えていたことが隆盛の鍵であったことを本書は教えてくれます。一神教と多神教の違いはありますが、まるで元首制までの古代ローマを連想させてくれます。一神教の狂信ゆえの弊害を歴史的に長期にわたってこうむったのはキリスト教国であり、イスラム教国のほうが開明的であったこと、その帝国の基盤を揺り動かすことになる大きな要因は、西欧由来のナショナリズム・民族主義の噴出であり、それこそが現在の様々な国際問題の引金になったことを考えると、種々の欠陥はあったものの、イスラム教だからと及び腰になることなく、我々はこの多民族・多宗教の共存に成功した国の歴史から学べることは少なくないと考えます。
・「オスマン帝国を知る」
オスマン帝国を、西欧側の偏見にとらわれず、中立の立場で、オスマン帝国を評価しています。オスマン帝国の、人種、宗教などを寛容に受け止め、各々の自由をある程度認める素晴らしい帝国でした。このため、ありえないくらい長く帝国を維持することができました。西欧は、身分の低い人々を束縛して、強い国をつくっていきました。しかし、その反感をかって、帝国は短命です。それに対して、オスマン帝国は、寛容によって、それぞれの人の善い所を利用し、強靭な国をつくることが出来ました。ただ、最後の滅びる時の文量が少ないのが、残念です。
・「寛容と多様性の帝国」
モンゴル帝国と同様に、空前の大帝国を築き上げたオスマン・トルコ。西洋社会では、やはりモンゴルと同様、略奪と殺戮に対する恐怖や専制と腐敗に対する侮蔑といった色彩を以って語られることが多いようです。 そうした側面を否定することはできないでしょうが、オスマン帝国は同時に、文明的水準の高さに加えて、多民族・他宗教を包摂し得るだけの寛容さ、相当の流動性を持った社会的身分関係など、多元的な価値を代表する、しなやかな帝国でもありました。 本書は、オスマン・トルコの草創期からスレイマン大帝の頃までを対象に、戦士集団が国家としての体裁を整え、やがて周辺諸族統合の核となっていく過程を描き、帝国としての発展を可能とした背景を分析するものです。 文章は平易な上、登場する固有名詞も適度に抑えられています。「柔らかい専制」という著者の分析の視点もはっきりと打ち出されており、何を言いたいのか大変クリアです。オスマン帝国の入門書として、素晴らしい出来だと思います。他方、敢えて言えば、地図や系図の類が貧弱であり、この点については改善の余地があるように思いました。
・「オスマン帝国の簡便な通史」
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・「very useful book」
オスマーン・トルコ史の初級版概説書は、もうこれ1冊で十分といえるほど、すぐれた入門書です。できれば、巻末に索引とビブリオグラフィーを付載しておいて貰えば、言うことナシの満点を付けたのですが。
なお欲を言えば、宦官や後宮の女人たちの宮廷内での陰謀や暗殺事件の詳細、またトルコ人の間で盛んだった男色や少年愛の世界を、よりくわしく記して頂きたかったかと存知ます。
・「教皇が変わると政治も変わる」
初代教皇の聖ペテロから現在のヨハネ・パウロ二世まで、263人の教皇が漏れなく収められている。本名、出身地、在位期間などの情報が詰め込まれており、個人としての教皇を知るには最適の一冊。歴史的背景は出来るだけ省略し、それぞれの教皇が何を行ったかが政治的、宗教的、文化的に描き込まれている。 教皇にはやはり、能力のある人物が多く、政治的手腕には感嘆させられる。しかし一方で、教皇が変われば為政方針が一変することも多く、教皇政治というものの難しさ・複雑さを教えられた。教皇の在位期間は数ヶ月から数年という例も少なくないので、一定した政治が行えず、すぐに諸国との関係が悪化したりする。そのあたりの面白さが存分に味わえた。
●ヴァンダル興亡史―地中海制覇の夢 (中公文庫BIBLIO)
・「あるゲルマン民族の物語・その2」
本書は、優れたリーダーであるゲイゼリックの指揮の下、ゲルマン民族大移動の時代にジブラルタル海峡を越えて北アフリカに進出し、強力な海軍を創設して地中海で活躍し、遂にはローマ皇帝から主権国家の地位を獲得するに至ったものの、ゲイゼリックの死後5代60年足らずで滅亡したヴァンダル族をその流浪の開始(紀元前2世紀)から鮮やかに描ききった快作。以前、同じ著者の「東ゴート興亡史」を紹介したことがあるが、それを読んで満足した人なら本作にも満足できるだろう。本書で東ゴート族との対比、特にどちらもカリスマ的な指導者であるゲイゼリックと東ゴーとのテオドリックとを対比して論じた章は秀逸である。また、著者はヴァンダル族が運命を賭けて渡ったジブラルタル海峡を訪れ、本書冒頭でそこの厳しい自然を描写し、悠久の歴史に思いをはせるが、風と潮騒の音とヴァンダル族の歓声が聞こえてくるような、短いけれども素晴らしい紀行文になっている。
ヴァンダル族に征服された北アフリカのカトリック僧侶の文書が多く残り、しかもローマ掠奪を行ったものだから、後世に「ヴァンダリズム」なる言葉ができ、悪者のイメージが強いヴァンダル族。たしかに掠奪や海賊等の行為はあったものの、あの時代多かれ少なかれどのゲルマン民族も行っていたもの。それより、ヴァンダル族を主体にして、8万人の集団が生き残りをかけてどのように闘い、北アフリカを支配し、東西ローマ帝国および東ゴート王国と丁々発止の駆け引きを行い、最後はゲリメル王が「空の空なるかな、すべて空なり」というこの世の無常を感じさせる言葉を残して滅びるまでの歴史を叙述する視点は実に魅力的。塩野七生氏のローマ人の物語第15巻の副読本にとどまらない充実した本として大いに推薦します。
・「アフリカに渡ったゲルマン部族」
世界史の勉強でゲルマン人大移動に時間をかけるフツーの高校生はまずいない。西ローマ帝国が滅んだ後に一区切り感があり、部族名と矢印が交錯するヨーロッパ地図は見なかったことにしてしまう。意識は次に来るイスラム史だか中国史だかに移っている。再びヨーロッパに戻ると、カール・マルテルがツールポワチエの戦でイスラム軍の侵入を打破したりなんかしている。「フランク族、メロビング朝、カール・マルテル、ツールポワチエの戦い、732年」ととにかく覚える。「フランク族」がゲルマン人の大移動一波だったという認識はこの時点では結構薄い。尤もこれは二流私大志望の高校生の受験勉強の姿で、一流大学の皆さんに関しては分からない。要は、フツーの日本人にとっては、「ゲルマン人の大移動」はほぼ知識の空白地帯だということ。ちなみにヴァンダル族というのがいて、北アフリカで王国を築いたことは記憶の端っこにはあった。「ゲルマン人がアフリカに?」と想像して異様な感じを持っていた。本書は『東ゴート興亡史』の続編として書かれたもの。地中海に旭日の如く勃興し、あれよあれよと滅びたゲルマンの一部族だ。涙を誘った東ゴート族の終焉と比べて、パーソナリティ的にはゲイゼリック唯一人、滅びもアッサリとしているが、それもまた歴史の多彩を物語って興趣が増す。相変わらず著者が惚れ惚れするような歴史語りのお手並みを披露してくれる。馴染みの薄い歴史を、大量の部族と大量の妙な人名と絶え間ない人馬の往来を、一気読みさせてくれる稀有の語り部だ。塩野七生女史だってこうは行かない。局所と大局のバランスが良く、やわらかい口調で情と理を兼ね備えた洞察が差し込まれる。全編から伝わるのは生き残りをかけた人間のアニマルスピリットだろうか。闘争の中で獣性を燃やし尽くした後にゲリメルが呟く「空の空なるかな、すべて空なり」という言葉の真実が切ない。
・「歴史の中に消えていった民族の興亡史」
スペインの南端、アンダルシアのタリファに立つ松谷氏は、かつて1500余年昔、AD429年の春にここに立ち、アフリカをにらんだ40がらみの男がいた、と書き始めます。それがヴァンダル族とアラニ族の王、ゲイゼリックでした。背後には8万の人々。おそらく戦闘員は2万かそこら。 ヴァンダル族の成り立ちと、その終焉の時、AD534年、そして最後の王ゲリメルが流謫の地で死んだAD553年まで、松谷氏のペンは、てきぱきと、きびきびと、ウエットではないが無味乾燥した文体でもなく、この歴史に消えた民族を描きます。 スウェーデンの南部あたりに発したこの種族は、バルト海を渡ってポーランド北端に一度は定住したあと、オーデル川を遡ったあたりでゲルマン人の大移動に巻き込まれます。そのまま西進し、ドイツ、フランス、スペインと追われ、ついにヘラクレスの柱を横断してアフリカに達したのです。終焉の地となったのはカルタゴですが、そこを拠点としてシチリア島を傘下におさめ、一度はローマを略奪してのけました。 東ローマ皇帝にユスティニアヌスという傑物がおらず、ベリサリウスという希代の名将がいなければ、あるいは生き延びたかも知れない。 さらに、ゴート族と同じに、もしも運と人材と政治力があれば、近代ヨーロッパの源流となったのはフランク族ではなくヴァンダル族であったかもしれない。 歴史とは時に無惨なもの。
時には、こんな歴史も振り返ってみたいものです。
・「北アフリカ=サハラ砂漠=不毛の地??」
高校生の頃、世界史の授業でゲルマン民族大移動の時代を勉強していた時、世界史地図帳を眺めながら、何故にヴァンダル族という一族はジブラルタル海峡を渡ってまでアフリカに居を定めたのかとても気になっていた。授業では東西ゴート族やフランク族に言及されることはあっても結局ヴァンダル族については触れられずじまいだった。
長年の疑問が本書を読んで明らかとなる。ヴァンダル族はフン族の移動に始まる民族玉突き移動で押し出されるように、もともとの居住地から現在のルーマニア→ドイツ→フランス→スペインと略奪と暴行を繰り返しながら放浪、なんと当時は有数の穀倉地帯(!)であったアフリカに渡り、最大の都市(!)であったカルタゴを陥として国を建てたのだという。
北アフリカ=サハラ砂漠=不毛の地という一般的イメージに楔を打ち込まれた一冊であった。また純粋な歴史学者ではない著者の語り口は思わずそのフレーズを真似してしまうほど説得力あり、的確で素晴らしい。
・「名著の復刊を歓迎する。」
既に2年以上前に新書版について本書を絶賛するレビューを書きましたが、手軽に手にとることができるビザンティン帝国の通史の本として最良の本であるという私の考えは今も変りません。その名著がこの度めでたく文庫版として復刊しました。内容的には新書版にわずかな訂正を加えた程度の違いしかありません。新書版との大きな違いは、装丁が変ったことと文庫版後書きが追加された程度です。新書版が長らく品切れで悔しい思いをした人も多いのではと思いますが、新書版未読の人は是非この機会に本書でビザンティン帝国の歴史の魅力に触れて下さい。時代の流れに応じて変り続けたからこそ、1000年以上この帝国が生き残ったことを理解できると思います。ビザンティン帝国、および帝都コンスタンティノープルへの敬愛に満ちた、平明な文章が、本書を実によみやすくしています。ずばり歴史的名著。その復刊を大いに歓迎します。
・「なつかしいなぁ〜」
大学の時に、演習で使いました。いまだに手元にありますが、とても良い本です。それがお勧めで来るなんてねぇ!?本の良さについては他のレヴューの通りです。演習では「ニカの乱」をやったのですが、(まあ、当然ほとんどは海外の文献を使ってましたが)渡辺金一氏の「コンスタンティノープル千年」−岩波新書−も役に立ちました。もしあれば、一緒に買うとよいのではないかと思います。今、手に入りそうなビザンツ関係の本なら、講談社選書メチエから出ている「ビザンツ 幻影の帝国」(根津由喜夫 著)中公文庫BIBLIO「東ゴート興亡史」(松谷健二−そう、あの「ペリーローダン」の、故松谷健二博士です−著)文春新書の「戦争学」(松村劭 著)、松村氏は、ベリサリウスを軍人の鏡として、高く評価しています。塩野七生の「海の都の物語」と「ローマ人の歴史」の−ローマ世界の終焉−などが良いかなあ、と。
・「「生き残った帝国」の輝かしい歴史を、あなたに。」
十年以上前に講談社学術文庫から刊行された作品が、講談社学術文庫として再版されたものです。395年にローマ帝国が東西に分裂し、西の帝国が滅亡した後も地中海世界にその影響力を長期に渡り及ぼした、東ローマ帝国ことビザンティン帝国の歴史を描いたものです。国内有数のビザンツ研究者である(と私は思っています)著者の手によるビザンティン帝国の歴史は、たんなる通史にとどまりません。皇帝・官僚・聖職者・農民・踊り子(!)・・・ビザンツ帝国のさまざまな時代を複数の視点から紹介することで、「生き残った帝国」ビザンティンの躍動感あふれる一千年を読者は味わうことができると私は思います。また、読みやすさに心砕いたと思われる、著者の平易かつ明瞭な文体に、あなたもきっとビザンティンという国に関心を持っていただけることでしょう。国内最高のビザンティン史入門書です。あなたにもぜひ。
・「おもしろい!読み易い!」
東ローマ帝国って何だろう?ビザンティンって何だろう?そう思ったら、ぜひこれを手に取ってみて下さい。簡潔でメリハリある文章が、歴史への入口を広げてくれます。
個人的なことで恐縮ですが、私は「○○年に、○○が、○○で、○○をした」といった一本調子の説明が苦手です。人名やら地名やら特定の概念やらの区別がつかなくなってしまうのです。名著と言われるような本でもあっても、そういうスタイルで書かれた本はことごとく挫折してきました。けれどこの本は一本調子で書かれていないので、とても読み易かったです。
ビザンティンの一千年という長い歴史の中から「これぞ!」という事柄だけを抜き出し、的を絞り切って説明してくれていることが最大の魅力かも知れません。人物や物事について時系列順にダラダラ語ることはせず、ひとつひとつの事柄の持つ意味の違いやコトの大小など、それぞれにインパクトを感じさせてくれるので、人名と地名の区別に困るようなこともありませんでした。とにかく読み易かったです。
・「ビザンツ帝国の研究に最も有益」
日本ではややマイナーな感のあるビザンツ帝国だが、正当なローマ帝国の継承者として、優雅な文化と高度な文明を誇り、これらを近代以降に伝える重要な役割を担った。そして何より特筆すべきは、相当な変遷や、対外的危機を経ても、まがりなりにも千年以上もその命脈を保ち続けたとう点であろう。 本書はここに着目し、ドラマチックにその歴史をコンパクトに描き出す。「文明の十字路」にコンスタンティノープルが建設されてからローマ帝国の分裂、十字軍の運動、そしてオスマン帝国の征服まで。多くの人物が生き生きと活躍し、血と汗と涙を流した。 手軽に一千年の歴史を味わうことができる。ビザンツ研究の入門に最適な一冊である。
・「決して入門書ではない」
新潮社の宣伝文句には、「ルネサンス入門書の"決定版"」とあるが、これは決して入門書ではない。学生時代からのルネサンス修行を経た著者ならではの薀蓄が随所に散りばめられている「今宵ナナミのルネサンス論」である。しかし、読者がある程度の予備知識を有しているなら、これほど面白い"ルネサンス論"もなく、なんで"小鳥に説教する聖フランチェスカ"と"皇帝フリードリッヒ"から始まるのか、著者の思惑が理解できて面白い。
昔の中・高校の世界史BBBの教科書には、一般的にルネサンスとは"文芸復古"と翻訳理解されていたが、本書には"文芸復古"なる言葉は一度も出てこない。ルネサンスは同時代に活躍した芸術家だけではなく、彼らのスポンサーであったメジチ家を中心とするヴェンチャー経営者、教皇、皇帝等々が指示し、支えたからこそ生まれてきたものだからという考えがあるからだ。
冒頭口絵と巻末に"ルネサンス人"の活躍した時代の簡略年表と彼らの簡単な紹介文が載っているが、これがなかなかいい。 ルネサンスよりはむしろ、著者の他の本への入門書と捉えたほうが当たっている。
・「ルネサンスへの誘いとしてこれ以上は望めない素晴らしい文庫本」
本書は平成13年4月刊行の本がベースになっているが、塩野さんと三浦雅士氏との07年11月6日の対談が追加されている。文庫本でルネサンスの歴史全体を鳥瞰するのにこれ以上のものを望むのは難しいと言ってよい、好著である。まず、冒頭のカラー印刷のルネサンス人一覧(約60人がいつ頃どの分野で活躍したかとかが一目でわかる)、イタリア半島住民数の推移、帝政ローマ時代・中世・ルネサンス期の貨幣一覧(経済の基盤となる貨幣の面でも古代の復興であったことが理解できる)、14・15・16世紀のイタリアの勢力分布(多色刷り・多くの地名入りでこのような地図は極めて重宝)、そして60頁以上を割いた主役たちの略歴一覧は、ルネサンスものを読むときに手放せない資料となるだろう。本論を構成する第一部から第四部でルネサンス時代の意義・精神の本質が丁寧に解説され、しかも対話方式で記述されているので、実に読みやすい。ルネサンス精神の最初の体現者として聖フランチェスコと神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世を採り上げるのは鋭い指摘で、私は納得した。続く多彩な人物の事跡も手際よくまとめられており、ルネサンス入門書として、また作者のルネサンスものを読んだ人も改めてルネサンスについての理解を確認する・深める助けとして、本書は大いに役立つ。ルネサンス入門者は本書をナヴィゲーターとして「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」「海の都の物語」「わが友マキアヴェッリ」を読むことを薦めます。
・「それは「見たい、知りたい、分かりたいという欲望の爆発」」
日本史脳の私は中学生レベルの世界史も怪しい状態ですので、「ルネサンス」と言われても「ヨーロッパ」とか「文芸復古」とかのキーワードしかでてきません。そのレベルの私には難しいかと思いましたが、「ローマ人の物語」が読みやすかった塩野氏の評論であり、タイトルにも惹かれ本書を手にとりました。塩野氏は冒頭、「見たい、知りたい、分かりたいという欲望の爆発が…(ルネサンスという)精神運動の本質」と端的に表現します(分かりやすい!)。そして、対話形式で、しかもルネサンス期の活動の中心であったフィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアを順番に辿り、それぞれの街で花開いたルネサンス活動とその中心人物の功績を紹介していきます。世界史オンチの私は登場人物の半分も知りませんでしたが、それでもルネサンスの躍動感のようなものは感じることができ、当時の芸術にも興味が沸いてきました。巻頭と巻末に掲載された人物一覧と人物評伝も理解を促します。歴史と人物を知らないとちょっと難しいかもしれませんが、それでも入門書としては十分すぎるほどの内容かと思います。やはり(歴史家ではなく小説家として)イタリア歴史ものといえば塩野氏、といわざるを得ない面白さ。世界史オンチの人にも是非読んで欲しい一冊です。
・「ルネサンスという、時代の流れが」
「ルネサンス」について、美術分野のみならず、政治・宗教・科学などさまざまな分野の人々の業績を取り上げて対話形式で読み解かれる本。
軽い衝撃でした。著者の本は敷居が高い感じがしていて、初めて読んだのですが、めちゃくちゃ面白い。ルネサンス期の専門書等はぽつぽつ読んでいたのですが人物と人物、事件と事件が結びつき、改めて流れが理解できました。主に登場する歴史上の人物については巻末に「主役たちの略歴一覧」がついており彼らの肖像画やつくった建築などの写真も添付されていてさらに理解を手助けしてくれます。
本当にすごい、良書です。
・「塩野ファンにも初心者にも」
ルネサンスという歴史の大きなうねりを、ボッティチェリの“春”なんかでなく、アッシジの聖フランチェスコとカール二世をもって嚆矢とする塩野さん独特の見解が鋭いです。 塩野さんの著書をまだ読んだことがない方はこの本から入っていかれたらいいのではないかと思います。 いきなり“ローマ人の物語”からでは息切れするでしょうし、かといってチェーザレ・ボルジアやマキャベリものというのも少しマニアックすぎますから。 何より塩野さん自身が、自分が物書きになったのはルネサンス研究にはまってしまったからだーと語っているのですから。
ルネサンスは、それまでキリスト教の価値観にどっぷり浸っていたヨーロッパ人たちが、古代のローマ文化を見直すことから始まった動きで、ではそのローマ文化とは何だったのか−ということを考察するために書かれたのがあの長大な“ローマ人の物語”だったわけです。 簡潔ながらも、この著作で塩野さんは再び原点であるルネサンスの総まとめに戻って来た感があり、すでに彼女の著作に慣れ親しんでいる方も必読です。 塩野さんは、キリスト教というのは基本的にヨーロッパ人たちの宗教であって日本人には関係がない。 しかしルネサンスは全ての人類を巻き込む大きな流れとなり、そして今自分はルネサンスから始まったヨーロッパ文明が終わりを告げようとしている時代に立ち会っているーと述べています。 ひとつの大きな歴史上の現象が終わり、新しい価値観を樹立しなければならない時がやってきた。 それだからこそ、私たちはルネサンスを起こした先人たちの“自分の頭で考える”精神から学ばなければならないー。 これが作家塩野七生最大のメッセージにして原点なのだなあ、という気がしました。
・「西地中海の海賊の横行を視座に据えた新鮮な中世史」
海を巡る歴史に造詣が深い著者ならではの、新鮮な中世史の読み解き方が提示される好著だ。扱う時代はイスラムの台頭から始まるが、ある1つの国・王朝の興亡をじっくり説く本ではない。8〜15世紀を中心に、イスラム化された北アフリカから出撃する海賊がヨーロッパの西地中海沿岸、特にイタリア半島の南部及びティレニア海沿岸、シチリアにどれだけ甚大な損害を及ぼしたか、それに対してキリスト教国はどのように防衛・反撃したかという大きな歴史の流れが叙述される。十字軍やノルマンの地中海進出にも触れているが、それよりも名もなき貧しい人々がどれほど苦しめられ、北アフリカに拉致された人々はいかに悲惨な目にあったか、最初は組織的な反撃ができなかったキリスト教国がやがてイタリア海洋都市国家の勃興とともにどのように反撃、あるいは拉致被害者を救出するようになったか、そして拉致被害者の救出のために献身的かつ非暴力の活動を継続した「二つの、国境なき団体」の歴史に重点が置かれている。ヨーロッパ中世史に関しては英・独・仏に目がむきがちだが、海賊の脅威が西地中海沿岸諸国にこれほど大きな影響を与えた(例えば産業・交易の衰退という中世の特徴を形成する一因となった)ことを本書は教えてくれる。結局はキリスト教対イスラム教という一神教同士の対立に帰着するのだろうが、ある時期シチリアで2つの宗教が共生できた歴史的事実は重要。著者は現代も愚行を繰り返す人類の将来に全く希望を持っていないとは言えないだろう。シチリアに比較的多くの頁を割いてその歴史を熱く語る著者の姿勢からそう思う。最後に、本書は本文303頁、イタリア沿岸の海賊監視塔であった「サラセンの塔」の詳細な分布地図と代表的な塔の風景写真がカラー刷りで32頁、そして年表付き。紺碧の海の美しさと廃墟となった塔の対比に諸行無常を感じる。
・「塩野七生の光と影」
ローマ人と過ごした至福の15年も終焉し、心に穴が開いてしまったようだった。そこへ来てローマ亡き後の地中海世界・上下巻の刊行は小躍りしたくなるような慶事だった。発売の初日に喜び勇んで都心の書店に駆けつけた。終わってしまった筈のこの恒例行事をもう一度することができた。なんという贅沢。塩野先生、最高だ。
刊行の記者会見によると、「守らなければならない法も、そして倫理もなくなったのが中世という時代。そういう時代には何が起こるのか?」というテーマを上・下巻に分け、切り口を変えて扱うという。
本書は、ローマ世界の終焉、特にスティリコの死以後と同じく、ある程度の覚悟を決めて、腹を据えて読み込むべきだと思う。振り返れば、第15巻・ローマ世界の終焉は虐殺・略奪・暴行・劫掠・都市抹殺・民族浄化と、人間の所業に絶望するような記述が、これでもか、これでもかと続いた。ページを捲る度に何千、何万人と罪無き庶民が殺され、財産を根こそぎ奪われていく。海の都の物語の最終章、ヴェネツィアが死に至るまでの細密で緻密な記述を更に恐ろしくしたような巻だった。
ローマ亡き後の地中海世界も、その延長線上にあるといっていいと思う。巻末にある美しい写真の数々には「希望はどこにもない」という一文が添えられている。本書を象徴するような、この美しい景色と虚無の落差はどうだろう。ここで少しだけ頭に過ぎったのは、(作者の頭中も掠めたと確信するが)せっかく刊行するなら、他に英雄が勇躍する歴史物語はどうなのかということ。(アレクサンドロスで永遠の若さをテーマにするのは時期尚早なのですか?)また前々から思うのは、海の都の最後といい、ローマ人の最後といい、塩野先生と付き合い、別れる男たちは皆、最後はあのような、これでもか、というくらいの恐ろしい目に遭ってしまうのかということ。
もうひとつ、ローマ亡き後は、五丈原の孔明の死以後の三国志の記述も連想させる。五丈原以後の三国志は、それまでの英雄が勇躍する物語から一転し、裏切りと権謀術数の三国志へとガラリと変わってしまう。手に汗握る知略の激突はもはやなくなり、無常観だけが三国志世界を覆う。三国志の作者はこの無常観を本編として描きたかったが為に、孔明の死までの諸侯の英雄譚を、予告編として長々と記述したともいわれる。「ローマ亡き後の地中海世界」をいきなり刊行しても商業ベースには乗らないだろうということは、冷徹な作者が誰よりも一番わかっていたことだと思う。「ローマ人の物語全15巻」があって、はじめて刊行可能だったということを。作者もまた、ひとつの目的だけでひとつのことをする人ではないということを改めて痛感させられた。三国志といい、ローマ人の物語といい、両者とも予告編が凄すぎる。
***歴史は人間の所業だと作者は説く。見たくない現実も直視しなければならないように見たくない歴史も直視しなければならないと、問いかけでもしているようである。 「英雄を愉しむばかりが歴史ではない」「歴史も人間も綺麗ごとばかりではない」「恋愛にも似て、人間性には光もあれば、宿命的に内在する漆黒の闇もある」「それは決して他人事ではない」そんな魂の叫び声にも似た何かが本書を通じて、中世の歴史の彼方から聞こえてくる。意図的かどうかはわからないが、ローマ亡き後の地中海世界上巻に、「カエサル」の文字は見当たらない。
・「『ローマ人の物語』と『海の都の物語』の空白期間を埋める作品」
聖戦に名を借りたイスラム教徒による海賊行為に苦しめられたローマ亡き後の地中海世界で、イタリアの海洋国家都市が力をつけて、サラセンの海賊を駆逐し始めるまでを描いている。やや、テロとの戦いや拉致問題などの話に引っ張られるているのかな…と思ってしまうような記述もありますが、異教徒を、まあ殺してしまえ、という『コーラン』の内容もあるから仕方ないかな、とも感じます。
下巻の目次も発表されていまして、それをみると、西欧が徐々に地中海世界を取り戻し、「レパントの海戦」でトルコに勝利し、やがて大西洋に出て行くというところで終わるのかな、という感じです。
塩野さんの作品ではローマを除けば最高傑作だと思うヴェネチア共和国を描いた『海の都の物語』にもチラッと海賊の話と対トルコ戦争は出てきますが、ヴェネチアが相手にした海賊はスラブ民族ですし、雌雄を決したのも"原アラブ"ではないトルコです。ですから『ローマ亡き後の地中海世界』は『ローマ人の物語』と『海の都の物語』の空白期間を埋める作品とも言えるかもしれません。それにしても、その空白期間というのが、これほどイスラムによる海賊行為に彩られていたとは、ちょっと驚きです。
・「パクス・ロマーナ終焉のちの地中海世界」
本書は、「ローマ人の物語」以後のパクス・ロマーナが過去のものとなってしまった地中海世界について書かれています。主に、北アフリカのサラセンの海賊との攻防です。
文章は読みやすく、内容も著者の読者なら期待を裏切られることはないでしょう。巻末にはイタリア各地域に点在する「サラセンの塔」のカラー写真が32ページ分も載っています。
ローマ亡き後の地中海世界(上)とローマ亡き後の地中海世界 下があります。
・「教科書に無い世界」
この時代の地中海は教科書には何も無かった。 イスラムの興隆、イベリアと小アジアからキリスト教世界を圧迫し、レコンキスタ、十字軍が起こる。くらいか。 イスラムとキリスト教の攻防の背景は日本人には分からないが地中海世界の海賊、拉致の中にそのヒントがあるのかもしれない。 これは英雄談ではないがヴェネチアが英雄に当たるのだろう。
・「平和がどれほど貴重な事か」
平和であること、安心して暮らせることがいかに貴重なのか、改めて思います。ローマによる平和なきあとの地中海世界の恐ろしさがいやというほど(救いのあるエピソードもありますが)書き綴られていて、愕然とします。海賊がどれほど地中海の人々の脅威となったか、アウグストゥスが知ったら酷く悲しんだでしょう。「ローマ人の物語」特に「パクス・ロマーナ」と併せて読むと、社会は線型に進歩していくものじゃなくて、前にも後ろにも、真直ぐな道も、歪んだ道も歩むものだと思わされます。
・「ベネチア史」
ある意味のベネチア史であるな。下巻ではベネチアと、オスマン、スペイン、フランスなどと国家的な関与があり、特にベネチア、オスマンのせめぎあいは読みがいがある。といっても、イタリアそれもベネチア視点というのはずっと変わらない。
・「中世の地中海世界は、何故一千年も海賊対策に明け暮れたか」
海賊のキリスト教世界への侵入が始まった652年以降、海賊対策に明け暮れた一千年の地中海世界の歴史です。生活の糧が得られ、生活の安全・安心を保障してくれていたパクス・ロマーナ(ローマによる平和)が崩壊した後の、海賊による脅威にさらされ続けた時代の地中海世界を主にキリスト教国側の海賊対策の視点から活写しています。庶民の安全が保障されることが産業や文化の発展に直結することを、海賊の脅威にさらされ産業や交易が衰退し文化が退化した中世の地中海世界の歴史から示している。 附録:民族によって異なる海賊対策では、ローマ帝国、ヴェネツィア共和国、スペイン王国の海賊対策とその有効期間を比較している。現代ソマリア沖の海賊対策の有効性を推察するにも参考となる。 著者のローマ人の物語等と同じく、いつものように一気に読める文体と地図、図、表、写真を駆使した親切な構成で長編歴史物語に没入・魅了させてくれます。
・「樹より森をしっかり見た、西欧・トルコ・海賊の約2世紀の歴史」
まず、(上)刊行から約1ヶ月で(下)が刊行されたことを嬉しく思う。そして2冊を一気に書き上げた著者のエネルギーに敬服する。
本書はオスマン・トルコの台頭からレパントの海戦に至る歴史を大きな視点で描く。著者は「海の都の物語」と違って地中海全体を眺めたのが「ローマ亡き後の地中海世界」だとするが、本書も西地中海、つまり北アフリカから繰り出すイスラム教徒の海賊と迎え撃つ西欧キリスト教諸国が物語の中心。海が苦手のトルコは西欧への攻撃のために海賊を支援し、遂には赤ひげ等をトルコ海軍総司令官に任命する。赤ひげがフランスに国賓として滞在中にも海賊業に励んでいたのには驚いた。迎え撃つ西欧諸国側も傭兵が活躍する。スペイン海軍総司令官となったアンドレア・ドーリアがその筆頭。ドーリア対海賊の戦いが本書中盤のハイライト。西欧連合の足並みが揃うことは稀で、名将ドーリアが奇妙な負け方をしたプレヴェザの海戦とスペイン王のアルジェ遠征失敗が響き、海賊にやられ放題の時期を迎える。名もない人の苦しみが続く様は哀れだ。しかし、トルコが本格的に西地中海に遠征したマルタ島攻撃を退け、レパントの海戦で西欧が勝利してからは、西欧が自信をつけ、さらに地中海の地政学的重要性の低下もあって、海賊は下火になる。レパント後の空気を伝えるエピソードが良い。
本書は森を語り、樹(例えば東地中海での攻防やレパントの海戦の詳細)のうち著者の既刊書に譲れるものは譲っている。本書で一連の歴史に初めて接する人は戸惑うかもしれないが、まずは大きな時代の流れを掴んで、巻末附録二掲載の本を読むとよいだろう。それらの本を読んでいる人にも樹の各々が森のどこに位置するかを確認でき、マルタ島攻防記等、初めてじっくり読む話もあって、やはり本書はお薦めだ。オスマン・トルコの歴史への誘いにもなるだろう。
・「どうやって、読者をはまらせるか?」
本の内容の評価は良い悪いは別にして、作者自身が読者にうまく内容を噛み砕いて表現していることを一番評価しています。ローマ人の物語もそうなのですが、見やすい地図や表が必ず途中に出ていて、読んでいてもストレスがなく、カタカナの地名が連続して出てきても、近くのページの地図を追いかけていけるので頭が痛くならなくて良いです。その地図も結構工夫がされていて、本の内容に合わせた地図が出ています。
今まで読んできた本の中には地図がなかったり、いまいち痒いところに手が届いていなかった場合が多く、地名のカタカナが連続して出てくると、日本語に見えず、何かの記号の羅列に見えてきて、めんどくさくなって挫折するか、読み飛ばすかしていました。自分は日本人で、日本史なら地図なしでもある程度イメージできます。あまりマニアックな地名だと困りますが。しかし、いきなり外国の地名が出てきてもなかなかイメージできません。距離感がわからない。そのような不親切な本をいったい誰に向けて発行しているのだろうか?出版社の人はその本を読んで「日本人でもわかりやすい」「日本人でもわかる」と思っているのか?
出版業界は大変だと聞いています。しかし、売れる本は売れるんだと思います。ローマ人の物語や今回の上下巻の評価すべきところは、文章もさることながら、痒いところに手が届き、ストレスを与えない構成です。それがあるからこそ、本にのめり込めるんだと思います。
●オスマンvs.ヨーロッパ―〈トルコの脅威〉とは何だったのか (講談社選書メチエ (237))
・「目からうろこが何度も落ちる本」
トルコ旅行に行くので買って読みました。塩野七生さんの本でトルコ史に興味を持ちました。彼女の著作は素晴らしいのですが、親ヨーロッパの立場から書いているので、その辺を補う本を探していて見つけました。従来のヨーロッパ中心史観に修正を迫る本です。欧米語を経由せず、直接トルコ語からトルコを学び研究する人が出てきたことは、うれしいかぎりです。
オスマントルコはコンスタンティノープル陥落後、ヨーロッパ地域に侵入して領土を増やし、一時的ですがローマ法王のいる国イタリアに、海と陸から同時攻撃をしかけておびやかしました。そのため西欧人は必死でトルコの情報を集めたのです。どうしてトルコは強いのか。西欧の人々はその理由を信仰の純粋性に求めます。偶像崇拝を禁じ、一切の妥協を排した厳しいイスラムの信仰。当時のカトリックは偶像崇拝を商品化して売っていたのです。キリスト教でも信仰の純粋化を図り強化しないとトルコに対抗できない、と考える人間が出ても不思議はありません。
こうしてコンスタンティノープル陥落から60年後、ルターの宗教改革が始まります。宗教改革の原因は複雑ですが、その遠因のひとつにトルコの存在があったことは疑う余地がありません。当時のトルコ皇帝はスレイマン大帝で、その治世にオスマン帝国は最盛期を迎えるほど強力だったのです。
近代以降、キリスト教国が世界を支配するようになると、かつてイスラム教徒のトルコ人を恐れ、支配されていたことが悔しくてたまらないから、トルコの悪口を誇張して広めた形跡があります。日本人はあまり自覚していませんが、これは日本が置かれた立場と酷似しています。東南アジア植民地の支配者だった英・仏・蘭・豪・米人から見ると、日本人さえ来なければ欧米植民地は安泰だったのです。それを失う羽目になったものだから悔しくてたまらず、意図的に反日宣伝を広めようとしたのと同じ構造です。この辺りの事情は、オランダの植民地人ルディ・カウスブルックの著書「西欧の植民地喪失と日本」に詳しい。
・「オスマン帝国の西洋史への影響がおもしろい」
トルコ民族の起源から始まるオスマン帝国の歴史の概観も書かれているが、面白いのは第三章の「近代ヨーロッパの形成とオスマン帝国」だ。今まで勉強して来た西欧の歴史は、東欧の歴史やオスマン帝国との関係と切っても切れない関係にあることが分かる。ブルボン家はハプスブルグ家との対抗のためにオスマン帝国との同盟を結んでいるし、東欧諸国の宗主権争いではオスマン帝国の意向は大きな影響を持っていた。私は EU へのトルコ加盟に違和感を持っていたのだが、背景を理解することが出来た。ヨーロッパ史を眺める新しい視点を本書からもらったと思う。
もう一つ面白かったのが、宗教に対する態度の変化だ。本書は、オスマン帝国は最盛期にはローマ帝国の正当後継者を任じようとしていたと述べている。また、オスマン帝国は住民の宗教には寛容でキリスト教徒も弾圧は受けていない。そもそも、イスラム教にしろキリスト教にしろ、アブラハムの神を奉っているわけで、神は一緒である。世俗権力が安定している時、経済がうまく行っている時には誰も細かいことは言わないのであろう。
ヨーロッパが近世に入り、宗教改革が興ると宗教の違いが政治に大きな影響を落とす。それでも、宗教は結局世俗の権力争いに大衆を引き込む手段として使われているように見える。それは現代でも明らかにそうで、大衆は宗教とか民族とかに熱狂して、最後には高いツケを払っている。大衆と権力者の関係なんてどれだけ立っても変わらんものだ。
・「案外知らない世界史の常識」
高校世界史の授業はどうしてもヨーロッパ中心に世界史を勉強してしまう。しかもそのヨーロッパ史がどのような背景を有しているかもなかなか教えないのが大半の実情ではないだろうか。
宗教改革の背景にオスマンが存在し、ヨーロッパ外交の原点にオスマンの影が存在し、治外法権の原点もオスマンに存在する。
イスラーム史とヨーロッパ史の切っても切れない関係を描き出している良書だと思う。大学受験予定の高校生にも是非読んでもらいたい。
・「オスマン朝による平和」
現在の不安定化する中東情勢を見るにつけ、この本から浮かび上がるオスマン朝による平和について思いを馳せざるを得ません。統合し拡大する「EU」と似たものを、ずっと以前につくってたのですから。
モンゴル帝国にオスマン朝など、従来西洋史観だけでのみ語られてきた歴史の、視野を広げるかっこうの入門書ではないでしょうか。
・「オスマントルコという国家の特質をうまくまとめている」
単なるオスマントルコの通史ではなく、オスマントルコという国家の本質と世界史上での意義を追求した知的刺激に富む書である。特にオスマントルコの発展を遊牧民族国家の色彩の強い時代・地中海世界の覇者・領域国家への変化の3つの段階から捉える視点が非常に興味深かった。
そもそもが遊牧を生業としていたトルコ民族が形成した国家である故、当初は遊牧民族国家の色合いが強いのも当然と言えよう。有能なものであれば農耕民であれ、他の遊牧民であれ貪欲に受け入れていくと言う傾向は匈奴やモンゴルにも共通するものである。オスマントルコが拡大していく上で欠かせない要素であった。
ただ、オスマントルコが拡大し、国家としての組織を確立していく過程で遊牧民族の要素は切り捨てられていく。トルコマンからイェニチェリに軍事力の中心が移行していくのはその典型である。この段階でオスマントルコを決定づける特色は地中海世界である。それまでの覇者であったイスラム世界を継ぐものがオスマントルコである。遊牧民族の特色を引き継ぐようにキリスト教徒やユダヤ教徒の力も最大限活用し菜ながら地中海世界を支配し、バルカンにも勢力を確立した時期である。メフメト2世が地中海世界への造詣が深く、スレイマン1世がローマ帝国を意識したのも当然と言えようか。
オスマントルコがヨーロッパ世界に強い影響力を持ったのもこの時期である。ローマ帝国崩壊後、地中海の辺境となったヨーロッパ世界はオスマントルコの存在を無視し得ない。特に直接境を接する東ヨーロッパ世界の他、ハプスブルク家の盛衰に大きな影響を与えているのは興味深い。またフランスのように積極的にオスマントルコと好を通じる国家の存在はキリスト教対イスラム教徒と言った単純な世界観では処理できないリアリズムと歴史のおもしろさを感じさせる。オスマントルコの存在がヨーロッパに刺激を与え、国民国家の形成を促したとなるとその関係の深さは世界史に非常に大きなものとなる。ヨーロッパがヨーロッパとしての自己を確立できたのもオスマントルコという他者の存在あってこそである。
領土拡大の終焉とともに領域を意識し、他者と自己の違いを明確にせざるを得なくなり、ついにオスマントルコも領域国家に変貌する時代がやってくる。この段階にはいるとオスマントルコは普通の国家となり、その特色は失われたともいえるだろう。本書もこの段階に入って筆を擱くのは当然と言えよう。
●海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)
・「地中海世界の1000年をたどる」
本書は、もう十数年前に、中公文庫版で読み、優れた歴史書と感心した覚えがある。
イタリアの小都市国家にすぎないヴェネツィアがなぜ千年もの間、独立と繁栄を享受できたのかが、いきいきと伝わってくる。 そして、ヴェネツィアという「定点」からみて、ヨーロッパやイスラム世界がどのように動いていったかが理解でき、ともすれば、バラバラな知識の寄せ集めになってしまう歴史知識がきれいに整理できる。
特にヴェネツィアに行ったことがある人にとっては、水に包まれた、あの不思議な祝祭的な都市空間が、こんな遥かな歴史をたどってきた結果できたものということに深い感慨を抱くことと思う。本書は、よくある陸地の歴史ではなく、海からみたヨーロッパ・イスラム通史といえる。
そしてさらに、読者は、千年の都があっけなく潰えることとなった近代国家の成立とは何なのか、現代とは何なのかを考えることとなると思う。
様々に示唆に富み、読んで興味深い、塩野七生氏の代表作。お勧めします。
・「優れた歴史書」
生き延びるには過酷な条件の中、小国でしかないヴェネツィアがいかに自由と独立を守り続けたか、それが生き生きと伝わってきます。大部である一千年の通史ですが、一気に読めます。歴史上の出来事、政治のシステム、経済上の制度、そしてバックボーンとなる彼らの考え方に力点をおいていますが、個々の人物もきちんと描かれ、市井の人々がどう生きていたかもわかります。「近くの味方は、しばしば近くの敵より始末が悪い」、「国作りとは、その国の民族の性格の反映」、「大義名分が有効なのは〜周辺の強国の抗議の口をあらかじめ封ずるのに役立つから」等興味深い言葉にも出会えます。
・「こういう仕事をする日本の作家さんって・・・。」
「ローマ人の物語」シリーズより、小説的で読みやすいと思う。とにかく圧倒的に面白い。ヴェネツィア人をあまりに功利的すぎるように感じる人もいるかもしれないけど、ヨーロッパの心が中世の魔女狩り的な薄闇の中にいた中で、その理性を維持していたのはすごいことだ。それでもトルコに勝てなかったという理不尽。後世からみてもヴェネツィア人の歩んできた道に間違いを指摘するのが難しく感じる。それにしても塩野七生以来、こういう仕事をものにできる作家さんが出てこないのはなぜ? 日本の中の小さな世界についてばかり書く作家ばかりでいいんだろうか?
・「ヴェネツィアの生い立ちと成長」
本書はヴェネツィアの歴史を紐解いた書籍の第1巻に当たりますが、おもにヴェネツィアの生い立ちから第四次十字軍遠征でのヴェネツィアの役割までが明確に記載されています。塩野氏の本はいつも思うのですが物語的トーンと叙述的トーンがうまい具合に合わさっていて、どちらかのウェイトが大きいと退屈すぎるか、胡散臭くなってしまうのだが、そうならず読者を飽きさせない記述になっています。下手なガイドブックを読むよりはこの本を読んでからヴェネツィア観光したほうがよっぽど感慨深いだろうなと思いました。キリスト世界でもなくイスラム世界でもない日本の塩野氏が描くヴェネツィア像はある意味世界的に見ても中立的に書かれているのだろうかと思いながら読みました。お勧めです。
・「ヴェネツィアのイメージが変わりました」
高校の時、世界史を選択していたのですが、その頃に勉強したヴェネツィア商人のイメージと言ったら、正直悪かった。「自分の利益のために第四次十字軍を誘導して、ビザンチン帝国を滅ぼした」だの、「香辛料貿易を独占し、他の国を締め出していた」だの、「自分たちの利潤のためなら平気で敵であるトルコに寝返った」だの。シェークスピアの「ヴェニスの商人」そのまま、ごうつくばりの集団というか…。
なので、ヴェネツィアという国家にはあまり魅力を感じていなかったのですが、著者の「ローマ人の物語」が面白いので買ってみました。(本当はこちらの方が先行作なのですが)
何というか、読んでいるうちに、すっかりイメージが変わりました!ヴェネツィア人かっこいい。なんてユニークな国家だったんでしょう。イタリア統一して、一都市になってしまったのが惜しいくらいです。(イタリアの方すみません)上記のあのヒドいイメージが、ヴェネツィアの立場からはまったく違って見えてくる。どんな旅行記や写真集より、ヴェネツィアの魅力満載の本です。
第1巻は、ヴェネツィアのはじまりから問題の第四次十字軍の時代まで。ヴェネツィアの立場から見た地中海の中世をぜひ体験していただきたいです。
・「物語性豊かな歴史書」
現在、フランス革命を舞台にした大河小説を書いている西洋歴史小説家、佐藤賢一が描く、カペー朝から始まるフランスの王国の歴史。
小説ではないが、ユーグ・カペーからシャルル4世まで、300年間に亘る歴代の王、一人ひとりを、佐藤賢一らしく物語性豊かに紹介している。
フランス内部、イングランドなどの他の国との関係について、とても読ませる内容になっている。
フランス革命期のフランスの王ぐらいは知っているが、それ以前のフランスの王やフランスの歴史はほとんど知らなかったのでいい勉強になった。ただ、300年を一気に描いているので、出来事の細かいところは書かれていない。アルビジョア十字軍とカタリ派との戦いには、前から興味を持っていたので、もう少し詳しいのを探して読んでみよう。
この次は、ヴァロア朝らしいが、こちらも楽しみだ。
・「待望のフランス王朝通史シリーズの始まり」
西洋史のうち、古代ローマ通史は「ローマ人の物語」シリーズがあり、その後のイタリアは「海の都の物語」や「メディチ家」、ドイツは「神聖ローマ帝国」や「ハプスブルク家」等、フランク王国分裂後の独・伊・仏のうち前二者に関しては新書等で通史の良書があるが、フランスに関してはこれぞという本がなかった。本書はその穴を埋める待望のフランス王朝史シリーズの始まりだ。著者は「英仏百年戦争」で主要な事件ほぼすべての年だけでなく月日まで紹介して私を驚かせたが、本書でも博識を発揮している。
フランク王国の分裂、カペー朝前史、そしてカペー朝成立から断絶まで300年・実質14代の王の列伝が本書の内容だが、詳しいだけでなく、各王の事績のポイントを歴史の発展のベクトルと重ねてその意義を説く。西フランクとフランスの関係、カペー王朝成立時は諸侯乱立期で王も実質的には諸侯と横並びの地方領主に過ぎずいわば個人商店であり、その個人商店が代を重ね、強敵としのぎを削り、分裂状態が続く独・伊を尻目に西欧の大権力者に成長したこと、規模を拡大した個人商店が会社組織に衣替えするように、国の隅々まで王の号令が行き届くには国造りもステップアップする必要があるが、その課題達成及び英国との関係清算はカペー朝では果せず、次のヴァロア朝に持ち越されることが歴史の流れの中で掴める。また、本書は上記「英仏百年戦争」で言う第一次百年戦争を包含し、「英仏百年戦争」の良い副読本になる。
肥満王、尊厳王、獅子王、聖王、勇敢王、美男王と渾名で呼ばれる王たちも個性的で親近感を覚える。嫁姑問題等、人間生活の諸相に変わりはない。各王の人間味も活写した秀作だ。
・「読みやすいフランスの通史」
歴史が割と好きなので、高校時代も世界史を選択したりしていました。が、学校で習う世界史ってイギリス史と中国史くらいしか通史が分かる形で教えてもらえないんですよね…フランス史も、かなり???の残る部分が多くて、通史の分かる本を探していたのですが、なかなか読みやすそうなものがない…。
そんな中、朗報です☆「フランス王朝史」と銘打って、各王を列伝形式で取り上げ通史を語る本書は読みやすく面白く分かりやすい。あくまで取り扱うのは「フランス王朝」なので、「フランク王国」であるメロリング朝、カロリング朝については前史として軽く触れるだけで割愛ですが、それはそれで明快で良いと思います。そもそも、カペー朝についてはユーグ・カペー以外「どこまでが」カペー朝なのか、すら分からないところからのスタートでしたので、この本は正にうってつけでした。
フランス史にカペー朝が果たした役目、という一つのストーリーの中で各王の列伝が語られており、ひとりひとりの個性も様々。フィリップ・オーギュスト、サン・ルイなど、キャラが立っていて、今後は他の王様と混同することはないと思います。英国プランタジネット朝とフランスの関係も良く分かりました。
次巻のヴァロワ朝の発刊が待ち遠しいです。その後はブルボン朝、と続くのでしょうがそこまでなんでしょうか?欲を言えばナポレオン時代まで扱って欲しいですね。(一応二人いるし)面白かったです!
・「フランスの黎明期を担った王たちを活写する好著」
中世のフランス王はラテン語で"Rex Francorum"を称したが、FrancorumはFrancusの複数属格であり、時代により「フランス人たちの」とも「フランク人たちの」とも翻訳可能である。
実際987年ユーグ・カペの即位により突如「フランス王国」が成立したのではなく、10世紀初頭には「西フランク」の「西」は取れていた(東及び中央フランクの断絶により敢えて区別する必要がなくなっていた)という。
さすれば「フランク」と「フランス」の違いは発音の違いのみなのか。
著者はそのようには見ず、分裂したフランク王国を再興したカペ朝の偉業を強調する。至当である。
但し「フランス」が明らかに「フランク」に由来していることに加え、著者の言うようにフランスがクロヴィスの王国の中核に位置することに鑑みれば、フランスがフランク王国の正統な後継者であると言っても強ち誤りではあるまい。
尚、ユーグ・カペの祖父ロベールは(西)フランクの玉座に登極以前、カロリング朝の王から"Dux Francorum"に任ぜらていた。
この称号はしばしば「フランス公」と訳され、ラテン語のduco(率いる)に由来するduxには軍事司令官としての意味合いが強いが、ここでは「フランク人たちの指導者」といった意味に取るのが宜しかろうというのが著者の解釈である。
さて、カペ朝の王と言って先ず思い浮かぶのはフィリップ尊厳王とか聖王ルイあたりであろうか。
列伝形式を取る本書はしかし、我が国では知られていないマイナーな諸王も含めて一人一人に光を当てており、当初は「同輩中の主席」に過ぎなかった王たちが堅固な王権を確立していく過程が活写されている。
次巻が楽しみである。
・「フランス王国の基礎」
日本ではフランス革命に関する本はもちろん多いし、三銃士あたりもそこそこ多い。しかしそれ以前のフランス史となると、とりあげる本も少なく、多くの日本人にとってなかなか理解や知識は怪しいというのが実情だろう。 本書は西洋史小説の第一人者が、カペー朝の起こりからわかりやすく説いてくれる一冊だ。封建制の中世ヨーロッパというのは日本人はわかりにくいが、丁寧に述べているので大きな混乱はあるまい。どうしてもあまり派手なお話は出てこないが(十字軍・ノルマン・コンクエストくらいか)、血の通ったフランス王たちの姿をほぼ初めてご覧になる人が多いのではないか。(個人的には「カペー」がポルトガル語である「合羽」と同語源というのがツボであった。) 次巻はヴァロワ朝とのこと。同筆者の英仏百年戦争 (集英社新書)、革命のライオン (小説フランス革命 1)などを読むうえでも理解が深まるだろう。 ただ、参考文献がフランス語だけなのが気になる。日本語で読めるものはないのだろうか。本書でカペー朝に興味を持ったものとして気になるところである。
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